「格差はつくられた」

「格差はつくられた」を読んで考えたこと。

クルーグマンは、19c後半からWW1までの階級差別/経済格差が激しかった時代を「金ぴかの時代」と呼び、ネオコンはその復活を目論んでいるとしている。この「金ぴかの時代」が成立したのは、当時の貧困層には選挙権のない移民が多く、彼らの声が選挙で反映されることがなかったのが一因だという。
現在の日本でこの「移民」に当たるのが、いわゆるネットカフェ難民と呼ばれる人々で、彼らは選挙権を持っていない場合が多い。

住所不定の状態が長期に亘る場合、職権消除により住民票が抹消される可能性がある。(中略)
選挙人名簿は住民基本台帳を基に作成される為、職権消除されて相応の期間が経った後は選挙権を実質的に喪失してしまう[注釈 10]などといった公共サービスの受益権や公民権に関わる障害も負う。

ネットカフェ難民Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8D%E3%83%83%E3%83%88%E3%82%AB%E3%83%95%E3%82%A7%E9%9B%A3%E6%B0%91

もちろん20世紀初頭のアメリカの移民の数に比べれば、ネットカフェ難民はごく少数ではあるけれども、本来政府が救済すべき人々の声が政治の場に届くことがないのは憂うべきことである。

クルーグマンは、労働組合の加入率の低さがアメリカの格差拡大の一因だとしているのだけれども、現代の雇用形態では労働組合が上手く機能しないというのも事実であると思う。近年の、現役世代向けのセーフティネットを政府主体で組んでいくべきだと言う声の高まりも、これに呼応している。ただ、もうひとつ派遣会社を使うという手もある。
今の日本では悪代官のように振る舞っている派遣会社だけれども、適切な法的枠組みの基では労働組合のような役割を営利目的でこなすことが出来ると思われる。これについては、ドラッカーが「ネクスト・ソサエティ」の中で言及していて、

ある専門領域の知識労働者のみを派遣する人材派遣会社を用いれば、労働者の業績は適切に評価され、有能な人はより重要な組織に派遣されるようになり、能力に応じて適切な場所で働くことが可能になる。
ネクスト・ソサエティ」 - カンダタ
http://d.hatena.ne.jp/noarke/20090814/1250260464

同じ業界で複数の企業及び複数の人材派遣会社が競合しており、派遣会社のマージンは法律で規制されていて、かつ企業と派遣会社の業務提携が禁止されている場合、神の見えざる手により労働市場は最適化される。実際には3番目の条件はあまり現実的ではないが不可能ではないと思う。

ネオコンは一部の富裕層のみの利益を考えているのにも関わらず、そのネオコン率いる共和党は2000/2004年の選挙で中流層から幅広い支持を得た。これについてクルーグマンは、ネオコン中流下流層の白人の人種差別意識を上手く取り込んだためだと述べている。
同様に考えると、既得権益層の利益のみを代表する自民党及び民主党がかくも多くの支持を得た理由も見えてくる。
例えば2007年の選挙で民主党が槍玉に挙げたのは、新興IT企業や投資会社であり、これにより貧困層の老人の若者/新しいものへの潜在的な恐怖をあおると同時に、若年下流層のコンプレックスを助長し、広い層からの支持を集めた。既得権益に立ち向かう勢力は常に既得権益層と貧困層の共通の敵であるので、そうした勢力が枯渇しない限り、残念ながら民主/自民の支配は安泰である。