4-6月の映画 10/26

連れ立って飲みに行く友達もいないし、家にテレビもないので、休日の夜は専ら借りてきたDVDを観て過ごしてる。
特に四月からは毎週コンスタントに二本映画を見ていて、既に25本を超えたので、その中でこれはという10本について書きたい。以下基本的にネタバレ。



どこかで観たことがあるような気がして調べてみたら、"Free Agent Nation"で本作が引用されてた様。トム・クルーズは、金庫の潜入したり、宇宙人から逃げ回ったり、ミグを追撃したりしなくとも十分格好良いというのが分かる作品。"Free Agent Nation"との絡みでいうと、仕事に人生を賭けるのは、映画の中でトム・クルーズがするには良いのだけれど、現実にはズタボロのバッドエンドで終わる確率も少なくないわけで、映画になるようなことを凡庸な僕らが真似すべきでないとは思う。

まず、ミュンヒハウゼン症候群のクオリティが高すぎる。ズーイー・デシャネルが可愛いというのもあるのだけど、それ以上に曲が普通に聴けるレベルに達してるのが凄い。一歩間違えば怪しげな新興宗教の宣伝映画みたいになってしまいそうなストーリーが、コメディとしてうまくまとまってるのは、ジム・キャリーの存在感の強さゆえだろうか。ちなみに、本作を観て僕もイエスというように心掛けようと思ったのだけれど、そもそも他人から誘われたり何か提案を受けることがまるでないことに気付いた。どうやらもはや手遅れだった模様。とは言え、本作は早くも僕のもう一度観たいリストにラインナップされつつある良作。

  • オー・ブラザー

コーエン兄弟ジョージ・クルーニーのコメディ。映画自体もそこそこヒットしたのだけど、すごいのがサントラで、全米で700万枚以上売れてグラミー賞まで取っている。確かに、良質なミュージカル映画のような側面も強い。もう少しコーエン兄弟的なアクの強さがあっても良かったと思うが、もしかしたら僕が見逃していただけかも。

  • マッチポイント

本作は世間的には後期ウディ・アレンの代表作として認識されているらしい。確かに、「ハンナとその姉妹」での浮気男の心理描写や「世界中がアイラブユー」で描かれた現代の上流階級の表現などが上手く継承されていて、その意味では実にウディ・アレンらしい良い映画だと思う。ただ、何というかあまりに映画っぽすぎるというか、ラスト三十分は展開が急すぎて完全に置いていかれた感じだった。あと、本作はなぜかスカーレット・ヨハンソンの名で語られることが多いが、それよりも個人的にはエミリー・モーティマーの演技が素晴らしいと感じた。

  • 普通じゃない。

ダニー・ボイル監督のハリウッドデビュー作。ツタヤでは何食わぬ顔で恋愛映画の棚に収まっていたが、SFファンタジー的側面もあれば、クライムサスペンス的展開もあって、ダニー・ボイルがただのラブコメを撮るはずないだろうという期待を裏切らない作品になっている。確かにダニー・ボイルの作品の中では普通の部類入るかもしれないが、絵面がきれいだし、音楽も良いし、主演の二人のはまり役だし、決して普通な作品ではないと思う。

実話を元にしたブッチとサンダンスの逃亡記。ラストシーンの衝撃ゆえか、ブッチとサンダンスには逃げ切ってパタゴニアで牧場を始めたという義経伝説が存在する。法的に悪役と見なされている人々を主人公として映画を撮るのは多分難しくて、逃げ切っても道徳心が痛むし、それまで感情移入してきた格好良い主人公が捕まるのを見るのは堪え難い。その間を取ってストップモーションなんだろうなと思った。

タランティーノが、70-80年代のB級映画のオマージュとして制作した作品。必要以上にエログロが強調されているあたりB級映画っぽいのだけれど、ところどころ無駄にハイセンスだったり金がかかっている感じがあったりして面白い。特に素晴らしいのが緩急の付け方で、全盛期のMogwaiの音楽のような、あるいはミラン時代のカカのドリブルのような、静と動のはっきりした対比がなされてる。Amazonのレビューではタランティーノの最高傑作とまで評されていたけど、女の子たちの会話に「フランスではクウォーターパウンダーのことをなんて呼ぶか知ってるか?」みたいなキレはないし、アクションもユマ・サーマンみたいなえげつなさがないし、最高傑作というのはさすがに嘘だろう。

こういうメタ的な作品はどうも痛い感じがすることが多いのだけど、さすがチャーリー・カウフマンというか、すごく自然に観ることが出来た。内容も二つのストーリーが上手く絡み合ってて、自分と全く同じ容姿をした双子の兄弟と自分を比較して悩む作家と、自分とまるで正反対のように見える被告への取材から自分自身を見つめ直してしまう雑誌記者との対比が興味深い。ちなみに、本作に出てくるランの本は実在していて、まるで非現実的な映画の展開をうまく引き締めてる。

酒に溺れたニコラス・ケイジがハリウッドを出てラスベガスに行く話。ストーリーの大枠は「ロング・グッドバイ」のオマージュなのかもしれない。ではなぜ「Leaving Las Vegas」なのだろうと考えるに答えは一通りしかなくて、作中にそれに気付くとバッドエンドだと分かっているものをどこか希望を探しつつ仕舞いまで観てしまう映画になる。僕はほとんど酒が飲めないので、たまに禁酒法の可能性について考えてみるのだけど、その度に結局長期的な致死性のリスクがないので禁酒を正当化するのは難しいだろうなという結論に達する。本作のニコラス・ケイジ扮するアル中が出家した人間のような潔さを備えているのもまた問題をややこしくしている。

  • 300

この映画自体あまり面白いとは思わないが、9作だけだと見栄えが悪いし、なによりAmazonのレビューが面白かったので。

私はこの映画のおかげで苦難をなんとか乗り切った。
這うように劇場に行き、5回以上見た。

理屈とか、CGがどうとか俳優がどうとかではなく、本能にダイレクトに響いた映画だった。
病気が治った家族に見せたら、評価は散々だった。
しかし、誰がなんと言おうと、私は間違いなくこの映画に救われた。
兜つきのDVD−BOXは、今も私の枕元に置いている。
http://www.amazon.co.jp/300-%E3%82%B9%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%8F%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%AC%E3%83%83%E3%83%89-%E7%89%B9%E5%88%A5%E7%89%88-2%E6%9E%9A%E7%B5%84-DVD/dp/B000U5HX3C/ref=sr_1_1?s=dvd&ie=UTF8&qid=1309361734&sr=1-1

僕が気付いてないだけで、実は凄い作品なのかもしれない。


逆にワースト3も挙げとく。

ミシェル・ゴンドリー監督でジャック・ブラック主演というので期待が高すぎたのかもしれない。パロディの元ネタが分からないというのと、分かってもパロディと呼べるものになっていないので面白くないというので、あんまり笑えない。ハリウッドを皮肉るなら、連ドラとかyoutubeとかのハリウッド以外の手段でやってほしい。

開始30分でバイクが壊れて、残りの一時間半を徒歩とヒッチハイクと筏で移動するのにモーターサイクル・ダイアリーズはないだろうというのが一点。もう一つは、チェ・ゲバラの描き方が浅いこと。残念ながら革命家を名乗る人物に出会ったことはないが、彼らはおそらくその敷衍する思想よりも崇高な何かを持っているはずで、それがなければ政府やマスメディアに逆らって大衆を煽動するなんて不可能なはずだ。しかし、本作で描かれているチェ・ゲバラは、南米を旅して資本主義のもたらした貧困の現状に気付いた学生という以上の何者かではなくて、深淵崇高な要素がない。


3つ目が思い浮かばないので、ワーストは二つだけ。あえて挙げるとすれば300かなあ。