4月(後半)の読書日記

 今の僕の実力だとまともな書評を書けるのはおそらく大衆迎合的な新書までで、文学作品や専門書を読んで何か書くというのはチャレンジしてはいるのだけどなかなか難しい。
ただ読んで何もアウトプットしないのも良くないので、読書メーターの「まとめ」を利用して感想を書き留めておこうと思う。

 前半は概日周期についての分子生物学的説明で、生物は24時間を測るのにタンパク質の合成サイクルを用いているのだという。これが神経回路で実装されていないのはおそらく、
a)複雑な神経回路が進化の過程で登場する以前に、生体時計は既に生物に備わっていたため。
b)神経回路のタイムスケールはmsecからsecであり、1dayを測るには短すぎるため。
c)少数のニューロン群によるRecurrent Networkはノイズに対して不安定で、てんかんなどを起こしやすいため。
あたりが原因であると思う。
 後半は、睡眠についての説明で、ショウジョウバエの睡眠の説明から始まり、人間の睡眠障害まで扱っている。

 さて、上に示したのはある期間における僕の睡眠時間の推移を記録したものである。横軸が日付で縦軸が睡眠時間、スケールは一応隠してある。ここから何が分かるかと言うと難しいが、まず一つ分かるのは寝不足の次の日は寝坊する確率が高いということ、もうひとつは前半に比べ後半の方が安定しているということ。後者については前半が休み期間で後半が学期中なのだと推測されるかもしれないが実際は逆で、僕が大寝坊をしなくなった原因はおそらく別にある。このことはグラフにしてみるまで僕自身も気付かなかったので、グラフ化を通じて睡眠というものがいかに興味深いものであるか身を以て実感した。
それとは別に、睡眠時間を記録し始める前はもう少し朝寝坊が酷かった気がするので、レコーディングダイエットと同様に、レコーディング寝坊対策は有効である。

  • 精霊たちの家

さらに祖母は、いつの日か今経験している身の毛もよだつような秘密を白日の下にさらすことができるよう、証言を書いておきなさい、真実に目をつむり、自分たちはごく普通の生活をしているという幻想に取りつかれている人たちや自分たちが幸せな生活を送っているすぐそばで、暗い世界に閉じ込められ辛くも生き延びているか死んでゆく人たちがいるという証拠が山ほどあるのに、それを無視し、自分の生きている世界が嘆きの海に漂っているはかない小舟のようなものだということをどうしても認めようとしない人たちがいるけど、その人たちの一見平穏で落ち着いた暮らしと並行して恐ろしいことが行われていることを世間の人に知らせてあげなさいと言った。

 改めて読むにこの一文があえて名文だとは思えないが、物語の終盤でこの文章に出会ったときは、山手線の車内で感涙しそうになるほど衝撃を受けた。ラテンアメリカ文学に一般に言えることだが、特にこの作品に顕著に現れているのがファンタジーのリアリティーで、「チリの農村部では良くあること」という印象でもって、物語に引き込まれていってしまう感じが強かった。もうひとつ、本作はおそらくチリの大地震を扱った作品の中で国際的に知られている数少ないものの一つで、地震それ自体は主題ではないものの、その描写は一読に値するものだと思う。

  • 九百人のお祖母さん

たしか元々は山形浩生のエッセイかなにかで紹介されていた本で、約二年ぶりに再読した。

だが、いまやたくさんのこと、いや、あらゆることをする時間があった。十五分のひまを十五時間に使える以上、この世界のなんであろうと、マスターできない理由はない。ヴィンセントは元々注意深い速読家だった。今の彼は一晩に百二十冊から二百冊の本を読むことができた。そして、加速状態で眠り、たった八分で一晩分の睡眠を取ることができた。
最初に身につけたのは、外国語の知識だった。一つの言語について、世界時間で三百時間、つまり加速時間で三百分(五時間)かければ、かなり該博な読解力が得られる。何カ国語を学ぶにしても、一番なじみ深いものから縁遠いものへと、正しい順序でやれば、別に大して困難はない。まず手始めに五十カ国語をマスターし、それ以外の外国語が必要になった時は、いつでも一晩をそれに充てることにした。
同時に、知識の蒐集と整理統合に取りかかった。文学では、はっきりいって、本当に愛読するにたる本は、一万冊しかない。きわめて楽しくそれらを読み終わったあと、そのうちの重要な二、三千冊を、再読のために残しておくことにした。
しかし、歴史書は非常にむらがあった。表現の点では読む価値もない資料やテキストを読む必要があった。哲学書にも同じことがいえた。もちろん、数学と科学は、純理的なものも物理的なものも、それと同じスピードでは吸収できなかった。しかし、時間はいくらでも利用できるのだから、すべてはマスターできる。もし、時間に制限がなければ、そして、もし正しい順序と前後関係を通じ、正しい準備学習を行ってからであれば、これまでにどんな人間の表現した概念でも正常な人間の頭で理解できないはずがない。
時の六本指 / R.A.ラフティ

 学問/新しい教養についてはまたいずれ書きたい。ただ原則的には多分引用の最後の文に書かれていることで尽きているはずで、任意の学問について任意の理解度へと有限時間で到達するパスが任意の初期状態に対して存在する。むしろそれを学問の定義とすべきだろう。
その代表的なものについては広く公開されているべきで、例えば力学について学部レベルの理解度を得るには、中等教育のカリキュラムを終えたあと、「物理のエッセンス -力学・波動-」→「ファインマン物理学1 -力学-」→「解析力学 (裳華房フィジックスライブラリー)」→「力学 / ランダウ・リフシッツ」→「古典力学 / ゴールドスタイン」の順に読み進めれば良いのだけれど、これはググってもなかなか出てこない。現代人は就職後も絶えず知識と思考のベースとを更新し続けることが求められているわけで、早熟な独学者のためにも、そういう状況を打開すべく何かしらのガイドがあっても良いと思う。


4月の読書メーター
読んだ本の数:3冊
読んだページ数:1339ページ

時間の分子生物学 (講談社現代新書)時間の分子生物学 (講談社現代新書)
読了日:04月29日 著者:粂 和彦
精霊たちの家 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 2-7)精霊たちの家 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 2-7)
読了日:04月27日 著者:イサベル・アジェンデ
九百人のお祖母さん (ハヤカワ文庫SF)九百人のお祖母さん (ハヤカワ文庫SF)
読了日:04月20日 著者:R.A. ラファティ,R・A・ラファティ,浅倉 久志

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