「Free Agent Nation」

良く誤解されているが、終身雇用制度は日本独自のものではない。アメリカでも70年代まではそれに近い雇用システムを持っていた。
例えば、1956年に出版された"The Organization Man"を引用してD.Pinkは以下のように述べている

「一度大企業に内定した新卒生は、自分が中小企業に転職することも、他の大企業に移ることもないと信じている。企業との信頼関係は固いものである。」と彼は書いた。実際に社会に出た新卒生たちは、企業への追従を条件に手厚い社会保障を提供されていた。

就職面接でのお決まりの質問は、「あなたの5年後、10年後のビジョンはなんですか?」で、「正しい」答えは、その会社の自分が今応募している職よりも高いポジションにいると答えることだった。

"Free Agent Nation"より意訳。以下も同様。

今の日本の大企業だと入社5年目で出世するのはかなり難しいだろうから、当時の雇用システムですら現在の日本のそれに比べてやや自由だったのかもしれない。しかし、原則的には大企業は長期間安泰であり、長期雇用が保障されていたという点では今の日本と同様のシステムであった。

けれども、その後50年でアメリカ人の労働スタイルは根本的に変化した。

現在に戻って仮に同じ質問に対して「5年後ですか?25年後の間違いでは?25年後でも私はこの会社で働いています。私はこの会社に自分の労働人生を捧げるつもりです。」と答えたとしよう。その瞬間に不採用になること間違いない。第一面接官ですら自分が5年後にその会社にいるとは思っていないのだから。

日本の大企業の面接で上のように答えた場合どうなるのかは知らないが、それが原因でお祈りされることはないだろう。

さて、なぜこのような変化が起きたか。著者は以下の4つの理由を挙げている。

1,企業と労働者の信頼関係の崩壊 : いつ大量リストラが起こるか分からない状況では、企業に忠誠を誓う意味は乏しい。
2,消費スタイルの変化 : 大量消費時代が終焉し、企業として巨大であることが必ずしもビジネスにおいて有利であるとは限らなくなった。
3,生活水準の向上 : 人々が仕事に意味ややりがいを求めるようになった。
4,企業の半減期の短縮 : 産業構造の変化が激化し、個々の企業の寿命が人々の労働期間に比べて短くなった。

同様の現象は日本でも起こっているが、法と慣例により押し付けられている。
しかし、4つの潮流は不可避であり、現行の長期雇用システムの崩壊は近い。