「10代で読んでないと恥ずかしい必読書」へのコメント

完全に時流に乗り遅れてしまったのだけれど、冬学期に入って食堂等で既に2-3回「10代の必読書」が会話の中で引用されているのを目撃していて、なんだか流行っているようで、もちろん僕も必読書のほとんどを読まずに20代になってしまった大半の人間のうちの一人なのだけれど、いくつか読んだことのある本があったのでそれについて簡単にコメントしておこうかと思う。

この本のペンギンクラシックス版を過去に2度友人に貸したことがあるのだけれど、2回とも1年後ぐらいに帰ってきて、感想を聞いたら2人とも「う、うん、途中までは読んだんだけど・・・」と言葉を詰まらせてた。そんな本。

「主人と奴隷の弁証法」が頻繁に引用されているあたりを見るに、この本の睡眠薬としての作用の大きさは決して小さくない。ヘーゲルはまずは「法哲学講義」から入るのが無難だと思う。

ニーチェは大体の物事についてAという命題とnotAという命題の両方を唱えた上で、止揚せずに耐えて発狂するという一風変わった手法をとるので、ニーチェそれ自身よりもハイデガードゥルーズを通じたニーチェ理解の方がとりあえずは重要なような。

下巻はぶっ飛んでてよく分からないけど、上巻の論理展開は実に美しい。個人的にはデカルト的世界観がなぜ間違っているかは本書で理解した。

『快感原則の彼岸』自体は短い論文で単独で読んでもイマイチ理解できない。臨床的には間違えだらけだけれども、「夢分析」や「精神分析入門」から入るのが、無意識の発見の物語としてはおもしろんじゃないだろうか。

個人的にはスゴく読みやすかったのだけれども、逆に文系には辛いのかも。こういう世界をビット列で見るような考え方は、物理的にはそんなに間違ってないと思うんだけれども、どうなんだろう。

  • ルソー『社会契約論』

家に岩波文庫版があって、読み切った気がするのだけれど、特に印象がない。

  • フロム『自由からの逃走』

当時のヨーロッパ知識人がホロコーストを前に思考停止に陥ってしまったというのは何となく分かるんだけれども、本書の論理展開はスピリチュアルすぎてついていけない。

  • ハバーマス『晩期資本主義における正統化の諸問題』

今から見るに実に時代を先取りした良書だと思うんだけれども、マクロ経済学による国家論というのは脳の波動関数のようなもので、そこから何か本質的なものが見えてくるわけではないような。

今となっては本書を読む価値はあまりないような気もするけれども、自由と平等のトレードオフの歴史というのはきっちりと押さえておくべき点なのかもしれない。

個人的にはなぜ高い評価を得ているのか理解できない本。確かに、大体の理論に対しては大抵支配的な例というのがあって、フーコーの「歴史学」学の議論に対して、本書が大きな例を鮮やかに展開しているというのは分かるのだけれども、オリエント世界の住人として目を通しておくべきなのだろうか。

  • ミル『自由論』

「禁煙は国益に反する」- カンダタ
http://d.hatena.ne.jp/noarke/20100123/1264255580
で引用したような、自由に関する議論のファンデーションが精緻に議論されている。ただ、その基盤となる功利主義の妥当性は非常に怪しいものだと思うけれど。

「資本主義と自由」あるいは「新宿とホームレス」 - カンダタ
http://d.hatena.ne.jp/noarke/20091006/1254831326
に書評を書いた。

  • セン『貧困と飢饉』

「飢饉は経済問題である」という命題を初等的なミクロ経済学の知識から演繹し、20世紀に起きたいくつかの飢饉について具体的に考察している。ベッドに寝転がって読める良書だと思う。

  • サイモン『経営行動』

途中で飽きたのでよく分からないけど、D・カーネギーとかの議論を科学的に詰めた感じ。

言語学の知識がなくとも読めるけど、形式言語について多少学んだことがないと厳しいかも。でも、言語についてこういう風に理論が展開できるというのはスゴく面白い。

ミームという概念が初めて提唱されたのは確か本書なはず。それだけでも読む価値があるけど、それプラス遺伝子の視点から様々な生物の形質を鮮やかに説明している。

15歳の時に本書を読み、死ぬほど感動した記憶がある。改めて読み返してみてもイマイチ感動するポイントが分からなかったので多分U-15なのだと思う。


ついでに僕からも一冊10代のうちに読んでおいたら良いんじゃないかという本を一冊あげておくと、これ↓

哲学講義 - ポール・フルキエ
http://www.amazon.co.jp/dp/4480083413

昔、立花隆が高校に講演会に来たときに、「フランスの高校生はみんなこれ読んでるから、君たちも読みなさい。」と勧められ読んだ本。論理展開が地味であまり面白みがないのも事実なのだけれど、丁寧に書かれていて実に読みやすい。
日本の中等教育のカリキュラムには哲学成分が絶対的に不足しているので、サプリメントとして一冊読んでおいても良いんじゃないかと。もちろん僕も20代になったばかりなので良くは分からないが。

参考:
「10代で読んでいないと恥ずかしい必読書 - その1/2/3」 - PictorialConnect
http://www.j1nn.com/archives/51733505.html
http://www.j1nn.com/archives/51733569.html
http://www.j1nn.com/archives/51733591.html